15歳の少女カルトゥマ・カティム(Kartuma Katim)は、陣痛が始まった時、ボー地区(Bo district)の病院を照会された。その病院は、彼女が暮らすシエラレオネ共和国の南部州の小さな村オールド・コンドル(Old Condor)から35km離れた場所にあり、家族も交通費もない彼女が行けるはずもなかった。結局カルトゥマは、伝統的助産師(産婆)(traditional birth attendant、TBA)であるハナ(Hannah)に助けられながら、小さな小屋の自宅で出産した。「彼女は何をすべきか知っていたし、私は彼女を信頼していました」とカルトゥマは振り返る。
しかし、この話はこれで終わりではない。TBAが女性の分娩を介助することは法律で禁止されているため、現在ハナは罰金を科されている。「私たちの助産行為は認められていないが、女性は私たちを必要としている。とても苦しく思う」とハナは話す。
TBAによる分娩介助が禁止されたのは、シエラレオネ政府が無料ヘルスケア・イニシアティブ(Free Healthcare Initiative)を導入した1年半前からだ。このイニシアティブの下では、診療所または病院で出産する場合に限り、妊婦は補助を受けることができる。それまでのシエラレオネにおける妊産婦死亡率は、世界で最も高く、妊娠や出産によって8人に1人の女性が亡くなっていた。
TBAの多くは読み書きができないが、アフリカ・アジア全域で活動しており、助産術は地域の年配女性から伝承される。TBAは農村部で、1年間に約6000万件と大多数の出産に立ち会う。
世界保健機関(World Health Organization、WHO)の最新の推計によると、2008年の妊産婦死亡数は約35万8000人であった。これは、1990年と比べれば30%以上減少しているものの、2015年までに妊産婦死亡率を4分の3削減することを掲げたミレニアム開発目標(Millennium Development Goal)の達成にはまだ程遠い。
妊産婦死亡の90%以上は、開発途上国で発生している。熟練した医療従事者の深刻な不足がその主な原因だ。人口約600万人のシエラレオネには、現在78人の助産師と5人の産科専門医がいるが、そのほとんどは都市で活動している。
専門家の中には、TBAに頼ることで女性は自らを深刻な危険にさらしていると考える者もいる。TBAは、妊産婦の死因の4分の3を占める出血や子癇、分娩停止などの産科的合併症に対処できないためである。ボー地区の元助産師であるシスター・セシリア(Sister Cecilia)は、訓練を受けていないTBAは安全でない出産方法を用いることが多く、「妊婦のお腹の上に飛び乗ったり、会陰を引っ張ったりするような慣習は、多くの女性や赤ん坊の命を奪うことになる」と述べる。
しかし、TBAは、妊婦の言葉や文化をよく理解する同じコミュニティのメンバーとして、信頼されることが多い。また、密林や通行不能な道路のせいで移動がほとんどできない地域では、TBAは分娩を手伝うことができる唯一の存在でもあろう。ボー地区では、ヘルスケアに従事する労働人口の67%をTBAが占める。分娩介助の禁止を受けて、TBAは「制度の外に置かれているが、それにより生じた空白部分を埋めるものが何もない」状況であると、ワールド・ビジョン・シエラレオネ(World Vision Sierra Leone)のジェニファー・ハロルド(Jennifer Harold)氏は説明する。
TBAの是非については、世界中のヘルスケア専門家たちの間で激しい論争となっている。ウガンダ政府はTBAを禁止しているが、WHOは、十分な数の助産師が確保されるまでは、簡単な保健業務を通じてTBAの訓練を行うことが最善策であり、それによりリスクの低い妊娠の場合はTBAが対処し、より複雑な事例の場合は診療所に照会するといった対応が可能となると主張する。
ワールド・ビジョンのアリス・ファトナー(Alice Fattonagh)氏は、シエラレオネのボンティ地区(Bonthe district)にある小さな保健出張所で、6人のTBAに対して絵本を用いた指導を行う。この活動は、地域のヘルスワーカー研修の青写真として政府が採用を検討しているプロジェクトのひとつである。対象を限定した定期的なカウンセリングプログラム(Time and Targeted Counselling programme)では、TBAが妊娠中の女性を定期的に訪問し、健康な食事や薬剤が塗布された蚊帳の中で睡眠をとることなどの簡単な予防衛生のメッセージを伝える。「村民は、私よりも同郷のTBAの言葉に耳を傾ける」とファトナー氏は話す。
訓練を受けたとしても、TBAは依然として効果的ではないと話す専門家もいる。ナイジェリアで38年間働いた産科医は、英国医療誌『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』(British Medical Journal、BMJ)への寄稿の中で、「TBAは高齢であるために、自分たちの型から抜け出せず、現代のヘルスケア療法に適応できない」と記している。また、読み書きができないということは、信頼できる記録を作成できないという点についても言及している。
しかし、TBAの訓練に対する科学的評価がほとんど存在しない中では、その効果を判定することは困難だ。WHOは、TBAの禁止は潜在的に危険であると指摘する。BMJによると、「マラウイでは、TBAの禁止後に妊産婦死亡数は増加した。TBAは闇市場に消えて、監督当局の前から姿を消したからだ」。その後、マラウイでの禁止は取り下げられ、現在では死亡数が減少しつつある。
習熟した医療へのアクセスが容易であるシエラレオネの都市に住む女性にとっては、無料ヘルスケア・イニシアティブが妊産婦の健康の改善に寄与するだろう。一方、農村に住む女性の大多数にとっては、TBAが唯一の選択肢と言えそうだ。オールド・コンドルの話に戻るが、ハナは、自身に科された政府の罰金により分娩介助をやめることはないと主張し、「我々は仲間を見捨てることができない。私たちの子どもや姉妹のために分娩介助をしなければならない」と話す。
(Source: Guardian.co.uk, 17 January 2012.)