インド、バンガロール ― HIV母子感染をなくすための活動を訪ねて

IPPF’s Sakunthala Mapa visited a project in Bangalore, sponsored by the IPPF Japan Trust Fund project and implemented by Family Planning Association of India.

インド政府は、HIV母子感染をなくすためのプログラム(eMTCT)を強力に推進しています。このHIVと共に生きる人々を対象としたプログラムを通じて、妊婦も服用できる治療薬の無料提供や、住宅の建築資金の補助、子どもたちへの教育支援などが行われています。 

国際家族計画連盟(IPPF)職員、サクンタラ・マパはインド南部、バンガロールのプロジェクト地を2014年11月に訪れました。ここでは「IPPF日本HIV/リプロダクティブ・ヘルス信託基金(JTF)」の支援を受け、IPPFインド(FPAI)がプログラムを実施しています。IPPFインドは政府のプロジェクトを補完する形で活動し、コミュニティとの絆を深めることで、生殖年齢にある女性たちにHIV検査を受けるように促したり、HIV陽性とわかった妊婦に欠かせない栄養や心理社会的なサポートを提供したり、意図しない妊娠を避ける方法を伝えています。

バンガロールの中心街から車で1時間ほど離れた集落へ、スニータという女性と、生後6カ月のラフールちゃんに会いに行きました。2人は、IPPFインドが行っている2年間のプロジェクトで、ピアマザー(同じ仲間の立場で支援をしてくれる母親たち)の助けを得て暮らしています。ドアを開けてくれたスニータは笑顔で、夫の姉妹と共に出迎えてくれました。ラフールは、1週間違いで生まれたいとこの赤ちゃんと遊んでいました。スニータと夫の姉妹は2人とも初産で、その経験を興奮気味に話してくれました。でもそれも、隣近所の人が周囲にいないのを確かめ、扉を慎重に閉じてからのことでした。

スニータが夫のナーリンダと結婚したのは、彼の前妻が突然死した後でした。ナーリンダの家族と、前妻との2人の子どもと暮らすため、スニータはバンガロールに引っ越しました。同じく妊婦だった夫の姉妹と、妊娠2カ月目で訪れたプライマリーヘルスケアクリニックでの初回の妊婦検診で、2人の妊娠の状況は大きく違うことがわかりました。検査でスニータと彼女の夫はHIV陽性の結果が出たためです。「夫はその結果を信じず、何度も再検査してもらいましたが、結果は変わりませんでした」。スニータは医師の指示に従い、HIV感染の診断を受けた直後から抗HIV薬を服用しています。

「ピアマザーたちは妊婦検診の時に初めて会って以来ずっと私に寄り添い、守ってくれています」とスニータは言います。ピアマザーたちによるカウンセリングを受け、家族計画、母乳育児、抗レトロウイルス薬や栄養など、HIV陽性でも健康な生活を送るために必要な知識を教わりました。「私がHIV陽性だと知っているのは、夫の姉妹だけです。ほかの親族や隣近所で知っている人は一人もいません」

IPPFインド(FPAI)は、今回初めてeMTCTに焦点を当てたプロジェクトを実施しています。このプロジェクトで得られた教訓を、インド各地の支部やインドを越えて全世界のIPPF加盟協会と共有したいと考えています。今回、バンガロールにある他のプロジェクト地も訪問し、そのサービス提供状況を視察しました。

IPPFインド(FPAI)がプライマリーヘルスケアクリニックで1か月に2回開催する妊婦と出産直後の母親を対象としたヘルス・フェアは絶大な人気を誇ります。その日に産前・産後のケアを受ける人もさらに増え続けています。 中でも、栄養サポートと、ピアマザーによる個別心理社会的カウンセリングは非常に役に立ったと、スニータは言います。ピアマザーたちは、自身もHIV陽性で、子どもを育てながら仲間を支援しているからです。

ラフールは母子感染を避けられたのでしょうか。残念ながら、バンガロールではテストキットが足りないため検査できず、感染の有無は母親のスニータにもまだわかっていません。頻繁に物資や消耗品が足りなくなることが、多くのHIVに感染した母親たちの大きな負担になっています。公立の保健センターでも、過去6カ月間、乳児用のHIVテストキットの在庫がない状態です。新生児のHIV感染の有無がわからない状態では、早期に治療開始もできません(新しいWHOガイドラインによると、HIV陽性と診断された乳児が生後12週間以内に治療を受けられた場合、死亡率は75%減少します)。

特に、HIVと共に生きる人々が貧困層や社会的立場の弱い人である場合、州が発行する身分証明書がないばかりに、無料の抗レトロウイルス薬など、政府が提供するサービスを受けられません。インド政府は、貧困層や弱者がサービスを受けられるよう、専用の身分証明カードを作り、無料、もしくは減額でサービスを受けられるようにしていますが、このカードは、州が発行する身分証明書がないと作れないため、せっかくの質の高いeMTCTプログラムも意味がありません 。

話を聞いた人たちの中で、妊娠中にHIV感染の有無を知ることができなかったサービス利用者は1人だけでした。自分がHIV陽性だとわかった女性のうち、男性のパートナーにその事実を伝えられた人は、います。しかし、伝えることで暴力を受けたり離婚されたりする危険があるため、パートナーに話すことができない人も少なくありません。HIV陽性とわかり、その結果を受け入れない男性や、妻のもとを去る男性もいます。このような態度をとるのは、HIVに対するスティグマ(社会的汚名)が背景にあるからです。IPPFインドはこの問題にも取り組んできました。

母親は妊娠中に違う経験をしたとはいえ、これからは、いとこと同じくらい健康な人生を歩めるようにと願いながら、かわいいラフール坊やに別れを告げました。