昨年来、中絶の非犯罪化、避妊薬(具)アクセスの改善、同性婚の認可など、SRHRに関して世界では大きな進展がありました。と同時に、一部の国では必要不可欠なヘルスケアへのアクセスを制限したり、SRHRを擁護する人々や団体、性的少数者が攻撃を受けるなどのバックラッシュも起きました。さらに、世界の紛争地域では、性暴力が蔓延しています。SRHR分野全体への資金増加措置がとられない限り、弱い立場に置かれた何百万人もの人々、特に女性と女児は、不均衡に苦しみ続けることになるでしょう。
以下では、SRHR分野における2023年の世界の動きについて振り返ります。
中絶ケア
・日本 2023年5月、厚生労働省が妊娠初期(9週0日以前)における経口中絶薬を承認。
・メキシコ 最高裁判所が中絶の犯罪化を違憲とし、中絶サービスの提供が、公的医療機関に義務づけられる。
・フランス 憲法に中絶の権利を明記することをマクロン大統領が約束。アルバロ・ベルメホIPPF事務局長もビデオメッセージで「実現すれば世界初」と歓迎する。
・フィンランド 社会保健省の妊娠中の女性の自己決定権を守る法改正の取り組みにより中絶サービスへのアクセスが容易になった。
ラテンアメリカにおける中絶の権利を求めるグリーン・ウェーブ運動の広がりなどがある一方で、中絶医療が合法の国でも、中絶の権利を擁護する人々が攻撃を受ける事例が増加しています。それでもなお、敵意と認知度の低さにもかかわらず、彼女たちは活動を続け、数え切れないほどの女性や少女、妊娠する可能性のあるすべての人々が中絶の権利が守られるよう、支援を続けています。
紛争地域におけるSRHR
・ガザ IPPFおよびIPPFパレスチナ(PFPPA)からガザ全域への援助物資配布の活動が妨げられている。現地の保健ワーカーたちは、想像を絶する状況の中、資源が不足していてもできる限りのことをしてきた。IPPFは今後も緊急SRHR支援を含む広範な人道的介入を国際社会に求めていく。
・ウクライナ IPPFウクライナは、中絶、レイプ被害の対応など重要なSRHケアを提供し、脆弱な立場に置かれた女性や女児の支援を継続している。
・アルメニア 2023年9月以来、10万人以上のアルメニア人が難民となっており、IPPFアルメニア(WRC)は、避難所の女性や女児に国の支援が行き届いていないSRHRやGBV関連の緊急ケアを提供している。
・スーダン IPPFスーダン(SFPA)は、同国で2023年4月に内戦が勃発して以来、レイプやその他のSGBVサバイバーに対するカウンセリングや支援などのSRHサービスを提供している。
ジェンダー平等
・スペイン 性別の自己決定権を認め、コンバージョン・セラピーを禁止し、中絶の制限を緩和するジェンダー平等実現のための新しい法律の一部として、ヨーロッパで初めて生理休暇が導入された。
・コロンビア 国内で350万人が罹患している子宮内膜症の予防、診断、治療ガイドラインを制定した。
・コスタリカ 生理用品への課税を13%から1%に引き下げる法案を可決した。
・ペルー 18歳未満の結婚を禁止する条例が議会で承認された。
LGBTQの権利
・日本 G7のなかで唯一、国レベルでの性的少数者に対しての法的保護がない中、名古屋地方裁判所が同性婚を法的に認めないことに対して違憲判決を下した。前年の札幌地裁に続き2件目。
・シンガポール 成人男性間の同意の上の性行為を犯罪とする植民地時代の法律を廃止した。
・スロベニア 結婚の定義を、性別を問わない「二人の人間の結びつき」と改正、LGBTQカップルの養子縁組を認可した。
・韓国 同性カップルにも異性カップルと同等の給付を受ける権利があるとの初めての判決が下された。
・ケニア 10年に渡る法廷闘争の末、最高裁ですべての人に団結の権利があるとの判決が下された。だたし政府はLGBTQの人々の団結登録を認めていない。
・ウガンダ 2023年5月に世界で最も厳しい同性愛禁止法を採択した。
・クック諸島 IPPF加盟団体CIFWAによる長年の働きかけもあり、2023年4月に同性愛を犯罪とする植民地時代の法律が撤廃された。
・ナミビア 最高裁判所が、海外で結婚した同性カップルを、国内でも認める判決を下したが、依然として同性愛は違法。
・ネパール 最高裁判所が、2023年5月、海外で結婚した同性カップルを国内でも認める判決を下した。同性婚を認めた国としては南アジア初。
・モーリシャス 2023年10月、同性愛者の性行為を非犯罪化した。
世界の避妊政策の状況
・2023年9月、IPPF ACROは他団体とともに、初の「ラテンアメリカ・カリブ海諸国避妊政策アトラス(Latin American & the Caribbean Contraception Policy Atlas)」を発表。33カ国についての評価を掲載している。
・2023年11月、IPPF ESEAORは、他団体とともに初の「アジア太平洋避妊政策アトラス(Contraception Policy Atlas Asia and the Pacific)」を発表*。アジア太平洋地域43カ国について評価を掲載している。
*(原文修正依頼中)
セックス・ワーカーの権利
・国連の「女性と少女に対する差別に関する作業部会」が2023年10月、自発的な成人のセックス・ワークを非犯罪化するよう世界に求める報告書を発表。時期を同じくしてIPPFは他の7団体と共に、「ラテンアメリカとカリブ海諸国におけるセックス・ワーカーの人権と包摂のための同盟(Alliance for Human Rights and Inclusion of Sex Workers in Latin America and the Caribbean)」の立ち上げに参加、セックス・ワーカーの非犯罪化を求め、人権を保護するよう各国に働きかけている。
このような世界の状況を鑑み、IPPFは引き続きSRHRを含む基本的人権、そして平和を守ることを使命の核心とした活動を続けていきます。差別のない世界で、あらゆる場所で、すべての人々が、自身のセクシュアリティおよびウェルビーイング(幸福)を自由に選べる世界を確立できるよう、さらに前進することを目指します。
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