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チャクリヤとヴェアスナ - 工場労働者の健康改善

IPPF 日本信託基金

IPPF 日本信託基金

チャクリヤとヴェアスナ

工場労働者の健康改善

チャクリヤ(31)はプノンペンの縫製工場、インジェに勤めています。1,000人以上いる工員のほとんどが女性です。他の大勢の工員のように、チャクリヤも健康診断や治療は受けられませんでした。家族の生活費と借金返済に給与のほとんどが消えていたからです。

カンボジアでは、縫製業従事者の大部分は若い未婚の女性出稼ぎ労働者です。彼女達は、たいていの場合、農村部出身で、家族や地域社会からの支援はあまり受けられません。

2013年から2015年にかけて、IPPFカンボジア(RHAC)は、工場労働者のリプロダクティブ・ヘルスとHIVサービスへのアクセスを改善するため、IPPF日本信託基金(JTF)プロジェクトを実施しました。インジェ工場は、このプロジェクトに参加した30の工場の1つです。プロジェクト活動の中で特に目覚ましい成果をあげたのが、クーポン制度です。クーポンにより、工員たちはRHACの診療所で、セクシュアル・リプロダクティブヘルスサービスを無料で利用できるようになりました。

RHACの診療所での工員向けサービスは、プノンペン、コンポン スプー町 とシハヌークビル市で展開され、2万枚以上のクーポンが使われました。

また、RHACが30の工場の医務室スタッフにトレーニングを行い、工場内である程度のセクシュアル・リプロダクティブヘルスのカウンセリングとサービスが提供できるようにしたことも、非常に重要なことでした。

このプロジェクトは、カンボジアで最も脆弱な人々に、大きな価値のある、待望の医療ケアを提供しました。女性は、定期的にリプロダクティブヘルスの検診や治療を受けなければ、無月経、子宮頸がんや流産のリスクが高まります。

チャクリヤ もそのリスクを抱えた一人でした。生理が不順であった彼女は、お金をためて仕事が終わった後も開いている個人の診療所に行きました。

「勇気を出して、初めて婦人科の検査に行きました。生理が戻ってくるように注射をしたのですが、少なくとも4万から6万リ エル (10‐15米ドル)かかりました。」

「注射は、私にとってはとても高価でした」と、彼女は言います。経済的余裕がなく、個人の診療所での治療を継続することができなかったため、チャクリヤはまた無月経になってしまいました。

「工場では、非衛生で揚げ物の多い栄養のない屋台の食事に頼っているので、婦人科系の問題を抱えていた人が多くいます。それに、私たちの住まいもきれいでなく、共同トイレは不潔でした」と、チャクリヤは続けます。

「私たちは、自分たちの健康上の問題について知りませんでしたし、たとえ何かおかしいと分かっても、経済的に厳しいため、医者に行きませんでした。検診を受けるだけの余裕がなかったのです。」

「私たちは女性工員の健康を心配していました」

ネアン・ヴェアスナ(32)は、インジェ工場の事務職員です。彼女は13年前に工員として働き始め、現在の役職につきました。

ヴェアスナは、ここで働く人が皆健康で、よく働けるようであって欲しいと言います。

「私たちは、従業員、特に女性工員の健康を気にかけていました。 婦人科系の問題を抱えている人もいれば、緊急に治療が必要な中絶や流産をした人もいました。」とヴェアスナは言います。「事務職員なので、病気休暇届を受け取り、誰が具合が悪いのか分かります。」

ヴェアスナは、女性工員のほとんどは個人の診療所に行っていたと言います。時には、治療の質が悪く、回復しないこともありました。「例えば、中絶を望んでも、どこで安全な中絶サービスを受けられるのか分かりませんでした。」

ヴェアスナによると、2013年以前は、インジェの従業員の最大10%が病気休暇を申請しました。 それに対し、RHACのクーポン制度導入後は、それがわずか2%に低下したとのことです。

事務職員からカウンセラーへ

ヴェアスナはRHACの研修を受け、従業者たちに女性の健康についてカウンセリングしたり、必要に応じて医療サービスを紹介できるようになりました。カンボジアでは、縫製工場の労働者のうち、半数以上が性感染症(STI)の治療を受けたことがあるのに、STIの徴候や症状を特定できた人はほとんどいなかったという研究報告があります。そのため、こうした職場で受けるカウンセリングは、工員達がセクシュアル・リプロダクティブヘルスやHIV、またその他の健康問題について学ぶ機会になっています。

ヴェアスナは、工員たちがセクシュアル・リプロダクティブヘルスサービスを利用できることが、ビジネス的にも理にかなっていることを知っています。

「工員が病気になると、仕事に集中できなかったり病気休暇をとったりして、工場の生産性に影響します。この工場では、1つのセクションに30人の工員がいるのですが、このうち1人か2人が病欠すると、生産が落ち込み、納期に間に合わなくなります。」

クーポンには大助かりでした

2015年にRHACの診療所で治療を受けて、チャクリヤの体調は良くなりました。また、彼女は同僚たちが同様にクーポンを利用して医療サービスを利用できたことを喜んでいます。

「裕福な人達にとって、お金が医療を受ける障害になることはありません。でも、私たちのような貧しい者たちにとっては、医療にかかるコストは重要な問題です。私たちは、RHACの診療所でクーポンを利用して治療を受けられたので、大助かりでした。」と彼女は言います。

RHACのクーポン制度は2015年4月にプロジェクト終了と共に終わりましたが、 チャクリヤは自分の体調に気を付け続け、RHACのクリニックで定期検診を受けています。

今では、カンボジアの国家社会保障基金が、基準を満たした非政府の医療施設も対象とするようになり、工場労働者もRHACの診療所で無償でサービスを利用できるようになりました。また、工場の医務室では現在、従業員への保健教育、プライマリーヘルスケアの提供、病院や診療所への紹介を行っています。

「無月経の治療を受けられて良かったです。大きな効果がありました。」彼女は微笑みながら元気な3歳の息子を抱きしめます。そして、ゆったりとしたワンピースの上から、大きくなりつつあるお腹を軽くたたきます。今、彼女は二人目を身ごもっているのです。

公開日 2021年2月2日

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