米国連邦最高裁が1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆し、50年間全米で連邦法の下に認められていた人工妊娠中絶の権利が保障されなくなってから2年が経ちました。最近でも米国では「中絶問題」がニュースのトップ記事を頻繁に飾っていますが、世界的に見ても、女性の健康と権利が後退し、取り残された状況です。米国は、エルサルバドル、ニカラグア、ポーランドと並び、この数十年間で中絶へのアクセスを制限した、たった4カ国のうちの一つとなりました。大多数の国は、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の拡大に向けて、真逆の政策をとっています。実際、この30年間で、60カ国以上が中絶に関する法的障壁を取り除きました。
中絶の合法化が世界的潮流となった一方、身体の自己決定権を否定する反権利運動が起きている事実も見逃せません。ロー対ウェイドを覆す判決は、世界中で退行的な動きを勢いづかせたのです。中絶アクセスの前に立ちはだかる法律や、スティグマ(汚名)を取り除くため、長年闘い続けた活動家、アドボカシー団体、医療団体を擁する多くの国々の政策の進展が脅かされ続けています。
米国は保健分野における世界最大の資金援助国であるため、その政策には非常に大きな影響力があります。中絶政策を良い方向に向けようと、闘って成果を上げてきた多くの女性が、アメリカの政策変更で困難に直面しています。また、反権利の大きなロビー団体が、中絶の権利の阻止を試みる米国での実践を他国でも実行しようと、水面下で働きかけています。
ロー対ウェイドを覆す判決の影響は、アフリカにも及んでいます。最近では、ケニア、ザンビア、ウガンダ、ベニンなどの国々が、中絶アクセス合法化のために進歩的な措置をとっています。ザンビアとベニンでは、社会経済的な理由を含め、女性がほぼ無条件で中絶措置を受けることができます。ところが、2022年の覆し以来、反対勢力の組織化が進み、資金力も強化されています。これらの組織は、誤情報を拡散させて世論を揺さぶる戦略を用いることが多く、その活動には大きな影響力があります。例えばケニアでは、2022年3月の憲法裁判所の判決について、司法長官が実施を停止させました。この判決は、ロー対ウェイドに一部依拠し、中絶をケニアにおける基本的な権利として認めたものでした。
世界中の反権利運動は、合法的なリプロダクティブ・ケアへのアクセスをも脅かしています。アフリカにおけるIPPFのとあるカウンターパートは、ほぼ毎日のように「謎のクライアント」たちが現れて嫌がらせをすると報告しています。保健省に通報してクリニックを閉鎖に追い込むことを目的とし、言葉巧みに違法のサービスをスタッフに提供させるというのが、組織の戦術です。
判決からの二年間で、米国内にとどまらない影響があったことは明らかです。世界中の中絶の権利の活動家、中絶医療・ケアの提供者、そして妊婦たちが、それを実感しています。他方、ひとつの希望としては、中絶の権利の後退が反権利団体を勢いづけたのと同様に、世界中のフェミニズム運動も活性化したことです。例えばフランスでは、中絶が憲法に明記されました。フランス議会の上下両院では、憲法第34条で女性の中絶の選択を「保障された自由」とする歴史的な改正を賛成多数で可決したのです。欧州、アフリカ、南米、アジアなど世界中で、人権を勝ち取るために、人々が立ち上がっています。反中絶運動家たちが、女性の基本的なケアへのアクセスを阻止し、奪い、削減するために執拗に活動を続けることは明確です。あとは、女性の権利を擁護するために我々には何ができるかということです。
写真:IPPF/Xaume Olleros/Mali
ビル・レーン
国際NGOのフィランソロピー、コミュニケーション、マーケティングのシニア・リーダー。現在、IPPFの個人フィランソロピー部門を率い、グローバルなミッションのための戦略的パートナーシップを構築している。
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Subject
中絶, アドボカシー