マリニ - 家路

IPPF 日本信託基金

マリニ

家路

「JTFプロジェクトを通して自分達自身への理解を深めることができました。」

アラビア海に沈みゆく太陽を背に、マリニは自分と自分を取り巻く人々を理解するに至った道のりについて語ります。南アジアでトランスジェンダー女性として生きることは、決して容易ではありませんでした。けれど、彼女の話をきいて心に残るのは、その苦悩よりもむしろ、彼女の他者に寄りそう広い心と誠実さです。そして、彼女が毎週訪れたというドロップインセンターが、彼女にとって慰め、友情と解放の場所となったことを知るのです。

マリニは、トランスジェンダー、男性間性交渉者、HIVと共に生きる人々など、ムンバイのキーポピュレーションと地元の女性のためにIPPFインド(FPAI)が設立したドロップインセンターの最初の利用者の一人でした。このセンターは、キーポピュレーションのセクシャル・リプロダクティブヘルス/ライツを守り向上させるための環境づくりを目的としたIPPF日本信託基金(JTF)プロジェクトの一環として設置されました。そして、このセンターは、マリニを含め大勢の人達にとって、「場所」以上のものになったのです。

家で困難に直面していても、センターに行くと安らぎを得ることができました。センターはかなり広くて、私は他の人にも来るように勧めたものです。そこでは、ドラァグ(女装・男装)して、サリーを着て、踊って、自由になることができるのよ、って。私達は週に一回会ったり、その他にも皆で集まるイベントをしたりしました。

ムンバイ南部の道路の終わりに位置し、センターはその利用者に希求の平穏で安全な場所を提供しました。もっとも、センターを特別のものにしたのはそこにいる人々でした。豊富な経験と他者への共感を持ち合わせたFPAIのスタッフが、センターを安全で居心地の良い空間にしたのでした。

スタッフの態度は格別でした。私には彼らが本当に私たちを理解したがっていると感じられました。彼らは自分たちの役割を超えて、私達を支えてくれました。センターに行けば私達はいつでも歓迎されました。午後5時には閉館でしたが、私達は幾度も7時まで居残り、それでもスタッフは不平を言うことは一度としてありませんでした。

健康と権利に関する会話

同センターは、人々が集まるところであるだけでなく、キーポピュレーションに大事な情報やサービスを提供する場でもありました。カウンセリングやその他のサービスを求めて、街の外から来る人達もいたほどです。

センターでは、私達の健康とリプロダクティブライツについて学びました。セーフセックスや避妊について話し、個々人に関する守秘義務は必須でした。スタッフは、私達が自分たちを他の人達と違うと思っても、それは私達が病院へ行って治療を受けられないことにはならない、医者は私達を差別できないし、私達は健康に関することで治療を受けるのに躊躇すべきでない、と教えてくれました。スタッフは、必要であればHIV検査や治療に私達を紹介してくれました。

マリニは、長年にわたりセンターに来ていた他の多くの人達と強い絆を結び、これらの友情により彼女は内在的な帰属意識を持つことができました。センターとそこで出会った人々が、難しい問題についても話す勇気を彼女に与えたのです。

JTFプロジェクトを通して自分達自身への理解を深めることができました。多くのトランスジェンダーの人々がセンターに来ていました。妻と一緒に来た男性間性交渉者も何人かいました。当時、そのような安全な場所を持てることは大変なことでした。そのような場は間違いなく必要でした。だから私は私の周りの人達にこの場所を利用してほしかった。健康のために。または、ただそこで楽しい時間を過ごすために。

マリニの家族へのアウトリーチ

彼女の両親とマリニ

マリニは宗教的なジョグティコミュニティの一員です。ジョグティは、神への奉仕に人生を捧げるトランスジェンダー女性の人々です。

ドロップインセンターは、マリニが彼女の家族との絆を強くする手助けもしました。

スタッフの一人、ジュグヌは、同じ地域の出身だったことで、母とよく打ち解けました。ジュグヌは、私が母にそれまでできなかった差別についての心配を打ち明けるのを助けてくれました。さらに私は、母の私に対する期待についても理解できました。キーポピュレーションは両親に対してオープンでないことも多いですから。

前進 - 小さな変化の大きな力

マリニは小さな変化の力を信じています。 「世の中が私達に対して抱えている問題が何なのかは分かりませんが、私が私のコミュニティに対する社会の見方を変えていくべきであることは分かっています。大きな社会について言っているのではありません。私に関わりのある人たちの事を言っているのです。彼らが、私の考えや思いを彼ら自身のに加えられれば、違った視点を持てるようになります。」

マリニは愛情を込めてアンマ(母)と呼ばれています。

プロフィール

ムンバイの家庭に男の子として生まれたマリニは、12歳の時に自分のジェンダーアイデンティティに気づきました。彼女は自分の個性と折り合いをつけるにあたり、自分が他者と「違う」とは思わず、自分は「特別」なのだと信じていました。マリニは、インド社会においてトランスジェンダーであることの汚名を被り、金銭的困難にも打ちあたりました。それでも、彼女は仲間の何人かが彼女以上にひどい目に遭ってきたことを知っています。彼女がLGBTコミュニティに見つけたサポートは、トラウマと悲しみに直面する他の人々に助言するにあたり役に立っています。

マリニは現在、ムンバイ市の組織でキーポピュレーションのカウンセラーとして働いています。彼らのセクシュアル・リプロダクティブヘルスに関する情報を提供すると共に、彼女は彼らが定期的な健康診断と治療が受けられるよう、手助けしています。

IPPF日本信託基金は、2001年以来、FPAIにとって非常に貴重なパートナーです。プロジェクト支援を受けるようになった当初は、HIVは国の優先事項であり、HIVに対する意識向上のみを行っていました。JTFプロジェクトに支えられたプログラムの発展は、私達がセクシャル・リプロダクティブヘルス/ライツの活動とHIVとを統合する後押しをしました。それまで、HIVとAIDSのプログラムではそれだけに焦点をあてていましたが、私達は人はそれぞれ複数の健康ニーズを抱えていることに気付きました。縦割りの活動をしていてはいけないと、それまでの経験を活かし、女性セックスワーカー、男性間性交渉者、トランスジェンダーを対象としたサービスを盛り込むよう、既存のセクシャル・リプロダクティブヘルス/ライツサービスの幅を広げました。

私達の最近のJTFプロジェクトでは、複数の場所で女性と協力しています。全体的なアプローチとしては、女性の健康ニーズ、SGBVに関連する問題、および経済的ニーズを見てきました。毎年毎年、JTFプロジェクトによってFPAIのプログラムは幅を拡げ、より総合的で包括的なものになりました。JTFプロジェクトは、コミュニティの多様なニーズについて考えるうえでも役立っています。例えば、以前はセックスワーカーやトラック運転手のようなキーポピュレーションを対象として活動しました。私たちは徐々に若者向けへとプログラムを拡大し、コミュニティの中に深く入りこみました。服役者たちとの活動までしました。

さらに、これらJTFプロジェクトは、私たちの組織能力の構築と、スタッフトレーニングを支えた点でも重要な意味を持ちました。今日、私たちのチームがセクシュアル・リプロダクティブヘルスの啓発について話すとき、HIV予防はその一環として扱われます。したがって、HIVのための別のプログラムは必要ありません。 アミタ・ダヌ、事務総長補佐・プログラム責任者、IPPFインド(FPAI)
FPAIは、日本政府の支援によるJTFを通じて、10年以上にわたり、革新的なプロジェクト実施のために13回も資金援助を受けました。JTFは、より良く、これまでと違ったことをするよう、常に私達を後押ししました。そのおかげで私たちは、より脆弱で疎外されたコミュニティに手を差し伸べることができました。

インドでHIV危機がピークに達したとき、JTFの資金がセクシャル・リプロダクティブヘルス/ライツとHIV関連の仕事を統合する機会を与えてくれました。縦割りのHIVプログラミングが、インドのパブリックヘルスの観点から重要な側面を持っていたことは理解していますが、パブリックヘルスと権利の観点から見た時には、権利に基づいたアプローチの要素を統合することも非常に重要であると理解することも欠かせません。長年にわたるJTFプロジェクトの機会は、FPAIがあらゆるキーポピュレーションや重要なコミュニティに手を差し伸べ、彼らと協力する助けになりました。 カルパナ・アプテ、CEO、IPPFインド(FPAI)

公開日 2021年2月2日