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Story

中絶の権利 世界における最新の法制度と近年の動向

2024年においても、中絶の権利は世界的に進化を続けており、より良いアクセスのための新法が制定されたり、フェミニスト運動が起きたりしています。世界中の最新の動きを見てみましょう。

過去30年間、中絶は60以上の国と地域で法的に自由化されました。後退し、法的に厳しくなったのは、米国を含むわずか4カ国だけです。いまや中絶の権利は、世界中の何百万人の人々にとって、基本的人権としての認識が高まっています。2024年においても、中絶の権利は世界的に進化を続けており、より良いアクセスのための新法が制定されたり、フェミニスト運動が起きたりしています。世界中の最新の動きを見てみましょう。

ポーランド

2020年10月22日、元々違法に任命された憲法裁判所は、ポーランドの中絶法は違憲であるとの判決を下し、特に胎児に重度の障害があることを理由に女性が中絶を受けられる可能性はないとしました。

2023年12月、新首相に選出されたドナルド・トゥスクの主な選挙公約のひとつは、中絶法を改正し、基本的権利へのアクセスを再確立することでした。中絶合法化(Legal Abortion)団体のドミニカ・チュィエクは「中絶の合法化は、連立を組んだすべての政党のマニフェストに掲げられていましたが、選挙から5カ月経った今でも、中絶問題は背後に追いやられています」と、英ガーディアン誌のインタビューに答えています。

2024年4月13日、ポーランドの議員たちは、4つの中絶法案をすべて下院に設置された特別委員会に提出することを決定しました。4つのうち3つは、中絶の合法化および非犯罪化を目的としています。安全な中絶への法的アクセスの自由化を目的とした法案が一次投票で落とされなかったのは、1996年以来のことであり、歴史的な快挙です。多くの女性や若者が行動を起こしたことによって実現した、確実な前進と言えるでしょう。暫定案では、5月中旬に専門家や中絶経験のある女性も交えた公聴会が開かれ、法案は5月末に特別委員会で採決されたのちに、本会議に送られる予定です。

IPPFの加盟協会であるポーランド女性ストライキ(Polish Women Strike)は、「私たちは、ポーランドの中絶擁護活動家の働きを含め、現時点での状況を考慮した堅実で実質的な対応が始まることを期待しています」との声明を発表しました。

no.1

フランス

2024年、フランスは中絶の自由を憲法に明記した最初の国となり、フェミニズム運動が歴史的勝利を収めました。これは、IPPFフランスの家族計画センター(Le Planning familial)を中心とするフェミニスト関連団体の尽力によって実現したものです。

「これはフランスだけでなく、ヨーロッパ、そして世界にとっても歴史的な決定です。米最高裁がロー対ウェイド判決を覆してから1年半。フランスの勝利は、「中絶は基本的な自由である」という国際社会に対する明確な希望のメッセージです」と、IPPF事務局長アルバロ・ベルメホは述べています。

近隣諸国もフランスに追随することを検討しています。次はスペインの可能性もあります。ヨランダ・ディアス労働大臣率いる極左政党スマールは、X(旧ツイッター)で次のように発信しています。「フランス国家そして女性たちは、進歩は可能だということを証明しました。今日、私たちは憲法に自由な中絶の権利を導入することを提案します。すべての女性の権利を完全に保障する時です」

写真:IPPFフランスLe Planning familial

no.2

イギリス

イギリスでは2019年以降、中絶をめぐって100人の女性が調査を受けています。このうち過去2年間で6人が、法的制限である24週以降に中絶を行ったとして告発されています。新型コロナウィルスのパンデミックにおけるロックダウン時に、法的妊娠週数以降の中絶を行い、投獄されたカーラ・フォスターの事例は、当時トップニュースになりました。イギリスでは、1967年に制定された中絶法により、2人の医師が中絶に同意し、妊娠が女性の身体的または精神的健康に危険を及ぼす場合という特定の状況下でのみ、中絶が非犯罪化されます。裁判ののち、超党派国会議員のグループは、イングランドおよびウェールズで、妊娠24週以降の中絶を非犯罪化する修正案を提出しました。

「中絶を人権として明記することで、安全、合法かつその地域に根ざしたものとし、支援者や中絶へのアクセス自体への今後の攻撃を防ぐことができます」と、ステラ・クリーシー議員は英ガーディアン紙に述べています。

写真:IPPF UK ローラ・ルイス

no.3

ドイツ

ドイツにおける中絶は、1871年以来、厳密には違法であるにもかかわらず、起訴されるケースはほぼなく、法的にはグレーゾーンにあります。また、妊娠12週までの中絶は犯罪と見なされていません。この矛盾した状況に対処するため、ドイツ政府は1年前、現行法を見直す委員会を設置しました。2024年4月8日、「生殖の自己決定と生殖医療に関する委員会(Commission on Reproductive Self-Determination and Reproductive Medicine)」は、「ドイツは国際基準に準拠しておらず、中絶は妊娠12週まで合法化され、妊娠中期においても非犯罪化されるべきである」との勧告を発表、ラウターバッハ連邦保健大臣は、これらの勧告が議会で検討される予定であることを明らかにしました。

IPPFドイツのPro Familiaは、「私たちは、連邦政府委員会が中絶の非犯罪化を勧告していることを歓迎します。政党連合がこの委員会を設置したのは、現行の法律が当事者、ソーシャルワーカー、そしてサポートする医師に、深刻な悪影響をもたらしているからです。中絶、カウンセリング、医療サービスを受けることがより困難なものとなっており、早急な対策が必要です。政府は、議会が終了する前に、必要な法改正案を作成、協議し、可決する必要があります」との声明を発表しています。

写真:Shutterstock/AndriiKoval

no.4

マルタ

2024年2月14から15日にかけ、マルタの活動家たちは、国内および欧州の議員たちとともに、EUで最も厳しいとされるマルタの中絶法に対して、ブリュッセルで抗議運動をしました。マルタでは、中絶は最高3年の刑に処せられるため、年間約500人の女性がオンラインで中絶薬を入手しています。抗議運動の参加者は、女性の身体の自己決定権を認め、女性の地位を向上させるための法改正を要求しました。さらに、マルタ政府に圧力をかけるため、欧州議会議員に国際的な支援を求めました。2023年7月、現行法の改正案が可決されましたが、中絶は妊婦の命に関わる場合のみ許可され、3人の医師による長期間の承認手続きが必要、申請後の待機期間も義務づけられたため、その間に生命が危険にさらされる可能性があります。

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2024年6月の欧州議会選挙では、保守中道会派が首位を占め、同時に極右会派が議席を増やしました。中道右派は、ドイツ、ギリシャ、ポーランド、スペインで最多議席を獲得。ハンガリーでも大きく伸長しました。
IPPFは、極右勢力の増大による、ジェンダー平等やリプロダクティブ・ライツへの影響を懸念しています。特に女性や周縁化された人たちの人権が守られ、差別を受けない社会を構築・維持できるよう、今後も欧州議会と協力していきます。

写真: Guillaume Périgois/Unsplash

no.5

米国

2022年6月、米連邦最高裁は、ロー対ウェイド裁判を覆し、女性のリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)を後退させるという歴史に類を見ない判決を下しました。以降、14の州が安全な中絶を禁止し、中絶の権利は攻撃を受け続けています。2024年4月9日、アリゾナ州最高裁は、母体の命が危険にさらされている場合を除き、ほぼすべての安全な中絶ケアへのアクセスを禁止するという、新しい法制度を採択しました。

2024年3月26日、ヒポクラテス医療同盟等(Alliance for Hippocratic Medicine et al)対米国食品医薬品局等(U.S. Food and Drug Administration et al: FDA)訴訟の判決を下すため、米最高裁が招集されました。この裁判は、20年前にFDAが、安全で効果も実証された中絶薬であるミフェプリストンを承認した件について争うものであり、性的権利と身体の自己決定権に対する、反中絶団体主導の組織的かつ政治的動機に基づく攻撃といえます。

これまで500万人以上の人々が、ミフェプリストンを使用し、問題なく妊娠の中止に至っています。ミフェプリストンは、妊娠中期、後期における流産の医学的管理にも使用されます。現時点で判断は下されておらず、ミフェプリストンは市場で流通しています。

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写真: Gayatri Malhotra/Unsplash

no.6

コロンビア

2024年、コロンビアは中絶の非犯罪化から2年を迎えます。2022年2月21日、コロンビアの憲法裁判所は妊娠24週までの中絶を合法化しました。

IPPFコロンビアProfamiliaの事務局長マルタ・ロヨは、合法化はフェミニズム運動の歴史的勝利といえる一方、残された課題もあると述べています。「課題は文化に根ざしたものです。妊娠24週目までの中絶には、利己的で保守的な男性優位主義文化の高い障壁がありました。未成年者で中絶を決意したひとりひとりの背後には、現在のシステムや社会制度のなかで、性的暴力の犠牲となった少女たちがいることを忘れてはなりません」

写真:Profamilia(Facebook)

no.7

アフリカ

2024年4月2日、米ワシントン・ポスト紙が「アフリカの大半の国では中絶は合法だが、そのことを知っている女性はほとんどいなく、積極的な宣伝もされていない」と報じました。

実際、2003年にアフリカ連合の55カ国は中絶の権利を支持する「マプト議定書」に署名し、議定書には以下の条文があります。「締約国は、性的暴行、強姦、近親相姦による妊娠、および妊娠の継続が母体の精神的、身体的健康に危険を及ぼす場合、または母体、胎児の生命を危険にさらす場合、医療による中絶を許可することにより女性の生殖に関する権利を保護し、あらゆる適切な措置をとるものとする。(第14条2.c)」

過去20年間で、アフリカの20カ国以上が、安全で合法な中絶へのアクセスを拡大しました。ベナンでも、2021年10月、「(妊娠が)女性または胎児の利益とは相容れない物質的、教育的、職業的、精神的苦痛をもたらす、または引き起こす可能性がある場合」の中絶が合法化されました。

しかし、IPPFベナンAssociation Béninoise pour la Promotion de la Famille(ABPF)のプログラム・ディレクターであるセルジュ・キティフン(Serge Kitihoun)は、「多くの人々は合法化について知りません。法律はフランス語で書かれており、フランス語が話せない人もいるので、現地の言葉に訳す必要があります。知らない人の多くは、安全でない中絶に頼るでしょう」と述べており、これは他の多くのアフリカ諸国にも当てはまる問題です。

安全な中絶を確実にするには、情報へのアクセスが極めて重要であるため、法律を公用語(植民地時代の言語)から現地語に訳すことは必須です。さらに、SNSは情報を広める上で重要な役割を果たします。米MSI社とデジタル・ヘイト対策センター(Center for Countering Digital Hate)は、2024年3月27日に発表した報告書「デジタル格差: ソーシャルメディアにおける生殖の権利をめぐる世界的な戦い(Digital Disparities: The Global Battle for Reproductive Rights on Social Media)」の中で、以下のように警鐘を鳴らしています。

「MetaとGoogle社は、地域の中絶医療提供者の広告を制限し、リプロダクティブ・ヘルスケアへのアクセスを困難にする誤情報の拡散防止に取り組んでいません。またMeta社は、米国を拠点とする活動家が実施した、海外に渡航して中絶を行うことの阻止を目的とした反中絶広告掲載による利益を享受しています」

大規模な偽情報は、女性の安全な中絶医療を受ける権利に悪影響を与えています。GoogleとMeta社は、責任を取り、何らかの対応をとる必要があります。

アフリカのプロライフ・反権利団体は、中絶医療を提供する医療従事者を威嚇し続けているため、医師や助産師は中絶ケアサービスを積極的に宣伝することを控えるようになりました。IPPFアフリカ地域事務局コミュニケーション担当のマラー・タボットは、「アフリカのサブサハラ諸国では、反権利的な政府、市民社会組織、反対グループが、マプト議定書のような女性と女児に広範な権利を保障する条約や法制度等に、強い異議を唱えはじめています。最近ウガンダ政府が制定した「反同性愛法」は、状況の後退の顕著な例です。避妊、中絶、包括的性教育、ジェンダー、セクシュアリティ、そして国家の役割をめぐる議論は、ますます対立を深めています。これらの課題には、協力、革新、そして揺るぎない活動の継続が重要です。私たちが連帯することで、包括的な中絶ケアへのアクセスを守り、拡大し、性と生殖に関する権利を擁護し、アフリカ、米国、そして世界のすべての人々にとってリプロダクティブ・ジャスティスが現実となる未来への道を開くことができるのです」と述べています。

写真: IPPF/Xaume Olleros/ベニン

no.8

インド

コロンビア同様、インドも2022年に、「婚姻関係にかかわらず、すべての女性が安全で合法的な中絶を受ける権利を有する」と最高裁が判決を下しました。この判決に関する規定のなかで最高裁は、「現代の法律は、結婚が個人の権利において必須条件であるという考え方ではなくなり、法律を解釈する際には、社会的道徳の変化を念頭に置く必要がある。社会が変化、進化するとともに、我々の道徳観や慣習も変化しなければならず、法律の再調整が必要になる」との声明を発表しました。

「偏見や圧力を受けることなく自分の身体について決定できるという、すべての女性の身体の自己決定権を強調したインド最高裁の判決を歓迎します。この判決は、未婚女性や夫婦間レイプのサバイバーが、質の高い中絶サービスを利用することの権利を支持するものです。また、身体の自己決定、プライバシー、秘密保持を中心とした中絶のセルフケアを含めることで、現行の中絶ケアガイドラインを強化する道筋を作ります。私たちのような医療サービス提供者は、この画期的な判決を協力して活用し、インドで安全でない中絶によって死亡する女性が一人も出ないよう果敢に取り組んでいかなければなりません」と、IPPF 南アジア地域事務所(SARO)は2022年にコメントしています。

写真:IPPF/Disha Arora/2022

no.9

アラブ諸国

マプト議定書は、北アフリカ諸国も対象となっていますが、署名・批准している国はほとんどありません。最近では2016年にアルジェリア、2018年にチュニジアが批准しているくらいです。エジプトやモロッコを筆頭に、アラブ諸国ではまだ署名していない国が多くあります。

この地域における中絶の権利の犯罪化は、植民地時代の負の遺産です。フランスやイギリスによる人口増加を目的とした出産奨励政策として、懲罰的な中絶法がこの地域では強制施行されています。こうした植民地時代政策の名残により、いまだに多くの女性が合法的かつ医学的な中絶サービスを満足に受けられずにいます。この地域の大半の国では、安全で合法的な中絶は、女性の命が危険にさらされている場合のみ受けられるという状況です。

中絶の禁止がアフリカ地域の女性の健康に与える影響については、まだ十分に調査されていません。中絶が犯罪化されている国々では、データ収集がほぼ不可能です。

しかし、この地域でもフェミニスト団体が、中絶に対する考えを改めるために活動しています。アフリカとアラブ諸国のためのRAWSA女性同盟(Regional Advocacy for Women’s Sustainable Advancement, 旧称Right & Access for Women to Safe Abortion Network)は、安全な中絶へのアクセスを広めるために活動しているネットワークです。国際女性デーには、「なぜ安全な中絶は義務なのか」を発表し、その中で「RAWSAのような組織やネットワークは、アラブ諸国における安全な中絶へのアクセスを求める人々のため、そして中絶を合法化、非犯罪化するために、アドボカシー活動の継続が必要です。ネットワーク構築、アドボカシー、ロビー活動を継続し、地域の政府に圧力をかけることは、アラブ諸国のすべての女性が人権を獲得するためのものです」と結論づけています。

写真: IPPF/Record Media/イエメン

no.10

チュニジア

チュニジアは、中絶合法化から51年を迎えます。北アフリカのこの国は、性の権利のアドボカシー活動において、先駆的な役割を果たしてきました。イスラム系アラブ諸国の中で初めて中絶の権利を合法化した国です。

しかし近年では、中絶薬の不足に直面しています。ピルを買うために、闇市場に頼らざるを得ない女性もいます。さらに、法律が制定されているにもかかわらず、安全な中絶へのアクセスを拒否する医療従事者が増えています。 2013年のセルマ・ハジリによる研究調査「合法的環境下における中絶医療の拒否(Denial of Abortion in Legal Settings)」では、チュニジアで安全で合法的な中絶を求める女性のうち4分の1が、その権利を拒否されたと報告しています。その結果、金銭的に余裕のある女性は非難されることを避け、民間のクリニックで安全な中絶を受けています。

さらに、各地の医療センターは、人材不足に直面しています。チュニスでは、女性1万人当たりの産婦人科医は8人。タトウインでは、女性1万人に対して医師は1人以下です。

IPPFチュニジアAssociation Tunisienne de la Santé de la Reproductionへのご支援についてはこちらのSNSをフォローしてください。

写真:ATSR

no.11

when

country

フランス, ドイツ, ポーランド, イギリス, コロンビア, インド, チュニジア

region

欧州, アフリカ, 東・東南アジア, オセアニア, 南アジア, アラブ世界, アメリカ・カリブ海地域

Subject

中絶ケア

Related Member Association

Mouvement Français pour le Planning Familial, Pro Familia - Germany , Family Planning Association of India, Asociación Pro-Bienestar de la Familia Colombiana, Planned Parenthood Federation of America, Association Tunisienne de la Santé de la Reproduction