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イエメン - 危機の中の継続性

IPPF 日本信託基金

IPPF 日本信託基金

イエメン

危機の中の継続性

「イエメンの人々のことを忘れないでください。2015年以来、私たちは世界最悪の危機の中に暮らしています。私たちに必要なのはあなた方のサポートです。」
ジャミラ・アルシャリー
プログラムディレクター、IPPFイエメン(YARH)

イエメンは依然として世界で最も厳しい人道危機にあります。長年にわたる紛争は、経済と社会的サービスの崩壊を招き、人口の80%を超える約2,400万人が援助に依存しているこの国は、現在は紛争とコレラに新型コロナ感染症を加えた、「三重の脅威」に直面しています。

過去3年間で430万人もの人々が避難民となりました。その約半数は、特に窮状が厳しい女性です。 UNFPAは、100万人の妊娠中および授乳中の女性が栄養失調であり、赤ちゃんが重度の発育不全で生まれてくる恐れがあると推定しています。また、144,000人の女性が出産合併症を発症する可能性が高いとも推定されています。

この危機の真っ只中、2017-18年に、YARHは日本政府の支援を受けて、イエメン西部のアムラン県で甚大に必要とされたセクシュアル・リプロダクティブヘルスケアを、キャンプの国内避難民や受け入れ地域の女性や子供たちに提供しました。

YARHのアリ・ノーマン事務局長は、「日本信託基金プロジェクトは地元の人々にとってとても大事な役割を果たしました。ある人々にとっては、初めてセクシュアル・リプロダクティブヘルスケアに触れ、衛生の重要性に知るきっかけとなりました。人々の健康管理や性暴力・ジェンダーに基づく暴力に対する態度に変化が見られるようになりました。

プロジェクトは、YARHにとっても良い経験となりました。「私たちはこれまで手の届かなかった地域に活動を拡げ、プライマリーヘルスケアの提供者、保健省、地元のNGO、避難民のためのイエメン女性連合とパートナーシップを築くことができました。各組織が協調体制をもってで活動できるようになったのです。」と、ジャミラは言います。

YARHは多くの課題に直面しています。 イエメンのリプロダクティブヘルス関連施設でいまだに機能しているものはほとんどありません。保健サービス従事者は、2年以上給与が支払われておらず、10,000人あたりの医療従事者数はわずか10人にすぎません。これは、YAHRのサービスを受けに来る人々が、セクシュアル・リプロダクティブヘルスと同時に、深刻な別の健康問題を抱えているかもしれないということです。

さらに、紛争と危機の中で、国は宗教色を強め、家族計画はタブーとされ、一部のコミュニティーや、さらに一時期は政府によってさえ禁止されました。YARH向けの避妊用物資貨物が、空港で役人に没収されることもあります。

この様な困難に直面しYARHは、積み重なるプレッシャーと不安定な物資供給の下でも、クライアントのニーズに柔軟に対応していくことを身につけました。

リプロダクティブヘルスに必須の継続性

多くのNGOがイエメンで活動していますが、多くの場合、短期的な緊急支援を提供するのみです。

「緊急支援プロジェクトは助けになりますが、数か月単位の短期的なアプローチはセクシュアル・リプロダクティブヘルスの向上努力には適しません。家族計画にアクセスできないので、昨年出産した女性が再び妊娠しているのを見かけます。」と、アリは説明します。

「日本信託基金プロジェクトのユニークな利点は、2年近くに及び活動をすることができたことと、その為に得られた継続性です。この継続性が人々のセクシュアル・リプロダクティブヘルスに大きな改善を生み出し、私たちがインパクトを作り出すことの支えとなっています。また、ここで特に重要なのは、何年も給与を支払われていない医療スタッフも、プロジェクトから少額の報酬を得られるのでサービス提供に戻ってこられる、医療スタッフが増えるということです。

「キャンプに暮らす避難民の中から若い女性をピアエデュケーターとして訓練する資金があれば、避難民のコミュニティ-はその人的資源をプロジェクト終了後も保持することができ、援助で始めた活動がより長く継続されることになります。」

新型コロナ感染症:これでもかと言わんばかりに

これらに追い打ちをかけるのが、新型コロナ感染症(COVID-19)です。COVID-19の検査と追跡調査は事実上存在せず、感染の広がりと致死性については、明確になっていません。避難民は、密な居住環境と時には水さえない基本的な資源不足の中、ソーシャルディスタンスも、頻繁な手洗いも、マスクの着用も叶いません。明らかなのは、避難民の人達にこの感染症が最も猛威をふるう、ということです。

ジャミラは言います:

「4月に、私たちはYARHの診療所すべてを2か月間閉鎖しなければなりませんでした。6月に再開して以来の課題は、医療従事者が病気にならないようにすることでした。検査キットがないので、スタッフとクライアントの双方をモニターして、COVID-19の症状が出ていないか気を付けるよう指導しなければなりません。」

脆弱性と SGBV

避難所の選択肢が限られているため、避難民の女性や少女は、特にお手洗いの利用に際してなど、プライバシーが確保できずに、暴力や虐待に対してより脆弱になります。

ジャミラ:「あるキャンプでは、お手洗いが男性用、女性用とそれぞれ離れて設置されたので、女性の脆弱性は軽減されました。けれども、 これは たった1カ所です。どのキャンプもこの様でなくてはならないのに。」

世界中の避難民の女性は、あらゆる形態の性的およびジェンダーに基づく暴力に対して非常に脆弱です。キャンプにおける生活のフラストレーションが、性的虐待を含む家族内暴力にもつながりうるので、アムランも例外ではありません。ジャミラは、ジェンダーに基づく暴力の件数がここ数年で各地のキャンプで倍増したと推定しています。

YARHは、首都サナア市において、2020年7月に新たな日本信託基金プロジェクトを開始しました。日本からの資金のおかげで、心理学者が月に2回キャンプを訪問しています。

ジャミラ:「痣のある女性をよく見かけます。夫や夫の家族に殴られたのかもしれません。彼女達を法的支援につなぐこともできますが、その多くは家を出て移れる安全な場所の当てがないので、法的手段に訴えるという選択をしません。私たちは、彼女達が安全でいられるように、手に負えない状況にならないように、できるだけのサポートをしますし、また一方で、男性を対象とした活動を通し、彼らが暴力的な行動をコントロールできるように手助けしています。

アリとジャミラは、自分たちが話をすることによって、世界中にイエメンの危機を思い出してもらいたいと願っています。そして、YARHが日本の人々の助けを借りて、すべてを失った人々の生活に明るい変化をもたらしていることを信じています。

アムラン県とサナア市の日本信託基金プロジェクトによる避難民を対象とした活動に加え、YARHは2つの診療所と若者向けサービスセンターを通じてイエメン全土でサービスを提供しています。 YARHは、若者向けプログラムを運営する組織同士が戦略的パートナーシップを構築するための重要な役割を果たしており、また、セクシャル・リプロダクティブヘルス/ライツ推進のための政治的支援の強力な提唱者です。

公開日 2021年2月2日

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