COVID-19と呼ばれる新型コロナウイルス感染症の流行が159カ国で確認され、世界保健機関(WHO)によってグローバルなパンデミックが宣言されました。COVID-19によって何千人もの(訳注:2020年3月20日時点。5月15日現在で30万人以上)人々が亡くなり、世界規模で保健システムと経済に影響を与え続けています。必ず影響を受ける医療課題として、安全な中絶が考えられます。
世界のすべての国で毎日、人工妊娠中絶が実施されています。すべての意図しない妊娠の半数以上が、中絶によって終わります。WHOの推定では、世界中で年間5600万件の中絶が行われています。
新型コロナウイルスの感染拡大によって自主隔離が必要な地域に住む人に、しばしば、避妊法を確実に入手する手段がないために安全ではない性行為をせざるを得ず、結果として意図しない妊娠の数が増える、という事態が起こることが想定できます。またCOVID-19危機下では、人々が密接して過ごさなければならないために、ドメスティック・バイオレンス(DV)とレイプが増える可能性もあります。この場合にも強制された妊娠が増え、中絶ケアのニーズが高まるでしょう。先が見えない状況の中、パンデミックによって収入がなくなる、その他の健康問題があるなど、妊娠を継続するという選択肢に影響する問題が出てくる場合もあるでしょう。人工妊娠中絶を必要とする人々が増える可能性がある今、どのように安全に受けられるようにできるでしょうか。
パンデミックが人々のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)に及ぼしうる影響について、グットマッハー研究所の発表したわかりやすい概要があります。この概要では薬剤の不足(避妊薬だけでなく中絶薬も)を指摘しており、その原因としてグローバルなサプライチェーンの混乱(薬品の多くが中国から供給されているため)があります。資金と医療従事者がCOVID-19対応に割かれてしまうことも、感染がもっとも拡大する国々で起こっています。これが医療サービスを逼迫させ、中絶を受けるまでの時間がかかる要因になり得ます。安全な人工妊娠中絶行動基金(Safe Abortion Action Fund、SAAF)が支援するパートナー、ジョージアのRPRVからの報告では(ジョージアでは法的に中絶は可能だが強いスティグマ(汚名)がある)、イタリアから帰国した医療サービス提供者が自主隔離をしたために中絶を受けるまでの期間が延びた例があるそうです。
中絶が法律で規制されている国の多くでは、他の市や国に移動して安全な中絶を受けるか、インターネットか遠隔地の薬局から通販で中絶薬を購入する選択肢しかないことがあります。このような手段ももちろん、隔離、移動制限、国境封鎖などによって影響を受けます。
欧州の「国境なき中絶(Abortion Without Borders)」という組織の連絡協議会の一部で、ポーランドで中絶を受けたい人々をサポートする、中絶サポートネットワーク(ASN)という団体があります。ポーランドの中絶法は欧州の中でもっとも厳格であるため、安全なケアを求める人はポーランドの外へ行くか、オンラインで中絶ピルを探します。ASNは懸念する気持ちを込めて、「ポーランド政府はポーランド発着の飛行機と列車の便をすべてキャンセルした」と報告しました。ポーランド在住で安全な中絶を受けるための選択肢として、多くの人が国外から中絶薬を郵送してもらっていましたが、国際郵便も止まってしまいました。
SAAFは中絶への援助を行うグローバルな基金ですが、支援するプロジェクトに前述のような変化による影響が見え始めてきました。実際の中絶サービスの提供、医薬品と資材の入手、さらには教育、啓発活動、スティグマ退治などの重要な仕事にも影響しています。公共での集まりが禁止されたことを多くの参加組織が報告しており、COVID-19に比べて緊急性の低い中絶について行う予定だった保健大臣との啓発会合なども中止される公算が高いでしょう。ジブラルタルで予定されていた中絶法改正に関する国民投票が延期され、アルゼンチンのパートナー団体、アルゼンチンの中絶法の拡充を求める活動を止めました。この法律が可決されれば、救われる命が増える可能性の高いものでした。
「ステイセーフ(安全に過ごす)」を続けるため、レジリエンス(回復力)とコミュニティ支援への献身を発揮している組織もあります。ケニアのTICAHは、ロックダウン(都市封鎖)下でもアーティストと活動するためのオンラインキャンペーンを始めました。TICAHの「ジェーンおばさん」ホットラインは、必要な人にカウンセリングと情報を提供しています。ウガンダでは確認された感染例はありませんが(訳注:2020年3月20日時点。5月14日には感染者数126名、死亡者数0)、VODAはスタッフとボランティアへの安全な活動についての衛生講習を行い、女性のリプロダクティブ・ヘルスニーズの将来的な変化に対応できるよう、学校と教会に助言し、支援しています。
これからできることは何でしょうか。最終的にウイルスがどこまで影響を拡大するのかわかりませんが、多くの国々に存在する制限の高い中絶法の問題が浮き上がっています。避妊法、安全な中絶へのアクセスを妨げるすべての法律、政策、慣習をなくさなければならないことを思い起こさせます。このような法律、政策、慣習はもっとも脆弱な人々のグループに深刻な影響をもたらします。
今の時期、オンライン診療の選択肢の検討が必要だと指摘されていますが、中絶ケアに関しては有効であることがわかっています。世界保健機関(WHO)はまた、医薬品を使った中絶を提供できる機関の拡大が重要だと発言し、「(中絶薬を用いた中絶は)個人が保健医療機関の外でいくつかのプロセスを自己管理することも可能である」としています。多くの組織や活動グループが、中絶を必要とする人々が安全に医薬品を入手できるよう支援を行っており、私たちはASN 、Fondo Mariaなどの中絶を支援する基金に寄付をすることで、この重要な仕事が続くように支援できます。
中絶支援に特化したグローバルファンドとして、パートナー団体と協働し、もっともニーズが高い人々に支援を届けられるようにし、どのような変化が起ころうとも対応できる柔軟性を発揮していきます。
女性とその他の人々は、常に人工妊娠中絶を必要としてきており、これからも必要とします。世界中のどこであれ、受ける人が誰であれ、中絶が安全に提供され、受ける人の尊厳が守られるよう、私たちはこの重要な任務を続けるための資金拠出を続けていきます。
文責:ローラ・ハーレー、安全な人工妊娠中絶行動基金(Safe Abortion Action Fund、SAAF)プログラムアドバイザー
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Subject
人工妊娠中絶