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「中絶を受けた人を愛しています」と書かれたプラカードを掲げる人

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ロー対ウェイド判決とは? よく聞かれる質問にお答えします

人工妊娠中絶を受ける権利を認めた画期的な米最高裁判決の持つ影響力と、これを覆してはならない理由について

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ロー対ウェイド判決とは

1973年に米国の最高裁判所が出し(女性が人工妊娠中絶を受ける権利が憲法で保障されるプライバシー権の一部であるとする)、米国全州で中絶が合法化されることになった画期的な判決です。

元々はテキサス在住だったジェーン・ロー(当時の仮名)がテキサス州ダラス郡の地方検事ヘンリー・ウェイドに対して起こした訴訟です。妊娠が分かったローが中絶を受けようとしたら、テキサス州では妊娠した人の命に危険が及ばない限り、中絶できないと知ったことから、訴訟に踏み切りました。

弁護団は、原告のローが州外に移動して中絶を受けることができないこと、さらにテキサス州の法律の文言が曖昧で、合衆国憲法で定められる原告の人権を侵害していることを主張しました。その結果、最高裁判事は7対2でローの主張を認めました。この判例によって、米国全土で妊娠初期の3カ月は人工妊娠中絶が合法となり、妊娠している人が政府の過度な制限を受けずに中絶を選ぶ自由が守られました。

 しかし、1992年に、プランドペアレントフッド(全米家族計画連盟:PPFA、米国にあるIPPF加盟協会)対ケーシーの判決で、最高裁はロー対ウェイド判決を見直し、修正しました。女性が中絶を選ぶ権利は憲法上、保障されていることが再確認されたものの、ロー対ウェイド判決の規定を覆し、妊娠初期の3カ月間の中絶を完全に禁止するという、もっと曖昧な「胎児の生存度」による中絶の可否を定めました。

この判決が今、話題になっている理由

ロー対ウェイド判決以来、米国の中絶合法化への挑戦は何度となく起きてきました。その一例が PPFA 対ケーシー裁判です。これらの2件は連邦法のレベルで争われましたが、州法のレベルでは中絶へのアクセスが途方もなく難しくなった州があります。テキサス、ジョージア、ルイジアナ州などです。メリーランド、コネチカット、カリフォルニア州などでは、ロー対ウェイド判決に基づかない方法で中絶の権利を守ろうとしています。

2022年5月現在、もっとも注目されているのは、ドッブズ対ジャクソン・ウィメンズ・ヘルス・オーガナイゼーションの判決です。2018年にミシシッピ州で成立した妊娠15週を過ぎた場合の中絶を禁止するという州法が違憲であると訴えた裁判です。

現在、ミシシッピ州で中絶クリニックとして認可を受けているのはジャクソン・ウィメンズ・ヘルス・オーガナイゼーションだけです。最高裁がこのクリニックの活動を認めない判決を出せば、ロー対ウェイド判決が覆ることになります。26の州で、最高裁判決を受けて州内の中絶を厳格に制限するか完全に禁止する「トリガー法」を準備しています。そうなれば、生殖可能年齢になる3,600万人超が中絶を受けられなくなります。特に、低所得者と有色人種が不利益を被るでしょう。

ドッブズ対ジャクソン・ウィメンズ・ヘルス・オーガナイゼーションの最高裁判決は2022年6月末か7月初旬に出ると思われていました。しかし5月3日に、判決に参加している最高裁判事サミュエル・アリートによる意見書の草稿がリークされました。これには、ロー対ウェイド判決が覆されると書かれていました。そうなれば、合衆国憲法のレベルで中絶の権利が守られなくなり、各州の権限で中絶の禁止や厳格な制限ができるようになります(各州の中絶法についてはこちら)。

生殖の自由にとって予断を許さない状況ですが、報道されたのはあくまでも判事一人の意見書であり、法律上の決定ではありません。記事の執筆時にはまだ判決は出ておらず、米国において中絶は合法のままです(近くのクリニック自宅での安全な中絶についての情報はこちら)。

ロー対ウェイド判決が覆された場合、何が起きるか

中絶を禁止しても中絶の数は減りません。中絶を必要とする人々は、何とかして手段を探します。多くは安全でない、効果のない中絶法に頼ります。その結果、深刻な被害を受けることもあれば、死に至る場合もあります。

ロー対ウェイド判決が覆れば、女性と少女たちの解放、からだの自己決定権、自由が否定されます。この判決こそが米国が誇る価値観ではなかったでしょうか。判決が覆れば、何十年もの間、何百万という人々が被害を受けます。

ロー対ウェイド判決は米国の法律問題ですが、その影響は世界中に及ぶことでしょう。女性と生殖の自由に反対する世界中の運動をあおり、女性と少女たちが望まない妊娠を強制されることにつながります。だからこそ、ロー対ウェイド判決が守られることは、米国だけでなく、私たち世界中の人々にとって重要になります。

判決を覆させないためにできること

最高裁にはまだ、正しい判断をする時間があります。人間の尊厳、解放、自由に基づいてすべての市民が安全で合法な中絶ケアを受けられるようにできます。ジャクソン・ウィメンズ・ヘルス・オーガナイゼーションを支持することで、合法で安全にアクセスできる中絶を守ることを、IPPFはすべての最高裁判事に求めます。

読者へのお願い:あなたのお気持ちを、米国各地にある中絶基金に寄付として表明してください。PPFAへの寄付は、米国市民(ロー対ウェイド判決を支持する多数の市民)の声を広める活動を助け、命を守るケアを提供するPPFAクリニックの活動継続の力になります。

IPPFは、すべての女性の意図に反するか、あるいは、同意に基づかない妊娠を強制されないよう、最善を尽くします。最新情報はTwitterInstagramFacebookでご確認ください。また可能であればご寄付による支援をお待ちしています。

寄付が難しい場合:米国のSRHR団体の活動について知ることができます。またこの人権問題が風化しないよう、近くで行われる抗議活動に参加するのもよいでしょう。対面でもオンラインでも、友人、家族、それ以外のつながりでこの話題を取り上げることもできます。どのような形であれ、あなたの支援が必要です。
  

PHOTO: 中絶の権利を求める抗議活動の様子。米国ワシントンDCにて。Photo by Gayatri Malhotra, Unsplash

when

country

アメリカ合衆国

region

西半球地域事務局

Subject

人工妊娠中絶

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