「私たちは『ムハニィッス』と呼ばれます」と話すのはアルベルティナ・マチャイエイエさんです。マチャイエイエさんはIPPFモザンビーク(AMODEFA)の看護師で、ムハニィッスとは、現地で使われるシャンガーン語の「救世主」を意味します。
マチャイエイエさんは19年間、アクティビストのチームを率いています。アクティビストたちはHIV陽性と診断されたボランティアで、チームは首都マプト郊外にある、最も貧しい人々の住むコミュニティに行きます。HIVと共に生きる人たちに必要な医療ケアを届け、AIDSに関する啓発をするためです。2017年には、検診、治療、食料配布、カウンセリングなどの活動を、1千世帯を超えるHIVと共に生きる人々に提供しました。
しかし、訪問活動など、人々にとって欠くことのできないAMODEFAのヘルスサービスが、グローバル・ギャグ・ルールの導入によって続けられなくなる恐れがあります。メキシコシティ政策として知られるグローバル・ギャグ・ルールによって、保健プログラムに拠出されていた米国政府の援助が、中絶に関連した活動を行う団体には一切、提供されなくなるからです。
実施されれば、AMODEFAの予算の60%にあたる200万ドルの拠出がなくなり、モザンビークにおけるHIVとの闘いに対して計り知れないほどの影響を及ぼすことでしょう。人口3,000万人ほどのモザンビークでは、推定で12%近くがHIV陽性だと言われています。「HIV、結核(TB)、マラリア、家族計画関連のプロジェクトに参加していた50万人ほどの利用者に影響があると推定されます」とAMODEFAのサントス・シミオーネ事務局長は、マプトの本部で話します。
マチャイエイエさんのチームではボランティアの数を、60人から半減させなければなりませんでした。何人かのボランティアは訪問活動を続けるそうですが、交通費が出ない状況では、必要な治療やカウンセリングを受けられない利用者が増えるだろうとマチャイエイエさんは言います。
パルミラ・エノーク・テンベさんのような女性にとっては、訪問活動がまさにライフラインとなっています。テンベさんと同居する2人の息子はHIV陽性で、さらに4人の孫がいます。テンベさんは自身がHIV陽性だとわかった時、恐怖のあまり何も考えられなくなったと言います。「何もしたいとも思えず、部屋で座って泣くことしかできませんでした」。しかし、AMODEFAから抗レトロウイルス薬を使った治療とカウンセリングを受けたことで、元気を取り戻せた と言います。自給自足のための農業を再開し「将来の計画を立てています。病気だとわかってもすぐに死ぬわけではないから」と前向きになりました。
モザンビーク南部の3省に点在する20カ所のAMODEFA運営のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・クリニックのうち、14カ所は2017年10月末までに閉鎖を余儀なくされます。各クリニックで看護師たちが1日に対応する患者は300人前後です。ほとんどが少女からの家族計画についての相談ですが、HIVなど性感染症の検査とカウンセリングを求める人々も多くいます。
「このようなサービスセンターを除けば、若者たちが情報を得る場所はありません」と話すのは、クリニックのトゥア・セナ・プログラムの責任者、ナリア・チャンバルさんです。クリニックの閉鎖により「望まない妊娠、早婚と児童婚、HIVその他の性感染症の感染の増加が起こる」と予想します。若いうちから学校に通えなくなる少女たちが増え、安全でない中絶も増える恐れがあります。
AMODEFAはモザンビーク保健省と緊密に連携し、AMODEFAが提供する家族計画、HIV、結核、マラリアの各プログラムが、政府の保健サービスをそれぞれ補完し、支援するよう調整しています。「AMODEFAの活動がストップしたら、政府の医療機関に大きな負担となります」とシミオーネ事務局長。「全国的に困難な状況になるでしょう」。
影響が甚大なのは最も貧しく、脆弱なコミュニティに住む人々です。モザンビークで最も大きく、貧困率も高いナンプラ省の農村地帯の住民を対象にしたAMODEFAの「チャレンジTB」プログラムが存続の危機にあります。1年ほど続いた同プログラムでは、一番近いクリニックが自宅の80キロ先にあるような結核患者の所までスタッフが足を延ばし、診断と治療をしてきました。
ボランティアとスタッフが自転車とバイクで駆け回り、遠隔地のコミュニティで結核の啓発と検査を続けることで感染の実態が見えてきました。AMODEFAが活動する8つの地区で結核の検査を実施したところ、2017年1-3月で1,318人、4-6月で2,106人、7-9月で3,154人まで受診者が増えました。検査を受けた人の半数以上は結核と診断されています。
「これだけでも大きな成果ですが、まだやることが山積しています」と話すのはプロジェクトのモニタリングと評価の責任者、マリア・テレーサ・ド・ファティマさんです。新規の結核感染者は今後2年間は増え、そこから減少していくとファティマさんは考えます。
特にリスクが高いのは、現在、抗結核薬を服用している2,000人ほどの患者です。抗結核薬は、6カ月間、毎日薬を飲み続けなければなりません。身近に薬を出してくれるクリニックがなくなってしまい、服用を中断すると体内で薬の効かない耐性菌ができる可能性があります。耐性菌の根治はさらに難しくなります。新規の患者が5人、治療を始めたばかりのナハとモルプラ地区で働くボランティアのマリオ・ヴィランクさんが言います。「(利用者たちは)AMODEFAに強い信頼があります。10人が治るのを見たので、今は深く信用されています」。
このような信頼関係が最初から築けていたわけではありません。マチャイエイエさんがマプトで HIV家庭訪問プログラムを始めた当初は、車を目立たないように停め、AMODEFAの人間だとわからないように利用者のコミュニティに行かなければなりませんでした。「人々はHIVを恐れていましたから、私の訪問も恐れられたのです」。
モザンビークの人々の態度が変わり、タブーが破られるまでには19年もかかりました。人々がやっと恐れの代わりに希望を抱き始めた矢先に、AMODEFAの活動と人々の命がグローバル・ギャグ・ルールの影に脅かされようとしています。
AMODEFAのたゆみない活動について知りたい方はこちら
when
country
モザンビーク
Blog Series
グローバル・ギャグ・ルールと闘う
Subject
HIVと性感染症
Related Member Association
Associação Moçambicana para Desenvolvimento da Família