コミュニティの人々の命に関わるHIVケアが停止する現実

BOFWAに通っていた患者の一人、ハバツワネさん。セレビ・ピクウェの自宅近くで

IPPFボツワナ(BOFWA)は1988年以来、国内で8つのクリニックを運営し、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスに関連した医療サービスを提供してきました。クリニックではヒト免疫不全ウイルス(HIV、エイズウイルス)、性感染症検査と治療、子宮頸部検診、避妊、家族計画の助言とカウンセリングなどを実施しています。
BOFWAは、若者と脆弱な人口に対する身近で親しみやすく、安全で使いやすいサービスをボツワナで提供する数少ない団体です。人口およそ230万人のボツワナのHIV感染率は18.5%です。

サービスの利用と汚名(スティグマ)

ボツワナでは、政府の運営するクリニックでも無料でHIV治療を受けられます。しかし、脆弱なコミュニティに住むHIV感染者に対する医療ケアは、個々のニーズに適したものでなければならないと、ウナ・ングウェニャ BOFWA事務局長は言います。「政府はすべての国民にヘルスケアを提供しますが、必ずしも必要とする人全員に質の高いサービスが平等に提供されるわけではありません。女性のセックスワーカー、男性と性行為をする男性、LGBTI(性的少数者)グループの人など、汚名(スティグマ)と差別のため医療サービスを受けられない人々がいます。BOFWAはこのような人たちのニーズを認識し、寄り添い、配慮したケアを提供してきました」

Una at her desk
ウナ・ングウェニャIPPFボツワナ事務局長

2016年、米国国際開発庁(USAID)の援助を受けて開始したリンケージ(Linkages)プログラムでは、男性と性行為をする男性や女性のセックスワーカーなど、脆弱で周縁化されたコミュニティの人々への支援を行う組織とBOFWAが連携してサービスを提供しました。支援団体が接触した個人がBOFWAクリニックに紹介され、HIV検査と治療を受けることができました。これら脆弱なコミュニティのHIV感染率は非常に高く(例えば、女性のセックスワーカーのHIV感染率は61.9%)、治療を受ける人の割合が低いことがわかっています。

リンケージ・プログラムを通じて、何百人ものHIV陽性の人たちが治療を受けられるようになりました。「BOFWAと協働するようになってから……陽性の診断を受けた人たちが治療を受けられるようになり、継続して支援できるようになりました。2017年9月に支援対象とした90名のうち93%を治療につなげることができ、ウイルスの活動を抑えられています。BOFWAの助けがなければできなかったことです」と話すのは、ボツワナの首都、ハボローネで女性のセックスワーカーを支援するンカイケラ・ユース・グループ(Nkaikela Youth Group)のスタッフ、カモゲロ・マリベさん(26)です。

グローバル・ギャグ・ルール

2017年1月に再導入されたグローバル・ギャグ・ルールの影響で、リンケージ・プログラムは廃止しなければなりませんでした。現地のコミュニティに不可欠な医療ケアと支援を届けていたプログラムを続けることができなかったのです。 

グローバル・ギャグ・ルールによってUSAIDの援助がなくなったために、セレビ・ピクウェという小さな鉱山の町にあるBOFWAクリニックが閉鎖されました。ハバツワネさん(44)は閉鎖による被害を受けた多くの女性の一人です。夫を失ったハバツワネさんは、3人の子どもを育てるためにセックスワークをするほかありませんでした。HIV陽性になったハバツワネさんは、BOFWAクリニックで治療を受けていました。「誰も彼もが私の状態を知ってしまう政府運営のクリニックに比べて、個人情報を守ってくれることが(BOFWAクリニックの)よいところです。BOFWAスタッフとは安心して話ができました」 

ハバツワネさんは政府運営のクリニックへ行くことを躊躇しています。HIV陽性ということで汚名(スティグマ)と差別を受ける恐れがあるからです。「(政府のクリニックへ)行くのが恐いです。コミュニティの人々に私の状態が知られるかも知れません。政府のクリニックでは他から隔離された場所で抗レトロウイルス薬(ARV)を投与しますが、BOFWAクリニックではそうではなく、匿名性が守られました」とハバツワネさんは言います。 

Gabatswane, sex worker & BOFWA client
BOFWAに通っていた患者の一人、ハバツワネさん。セレビ・ピクウェの自宅近くで

ハバツワネさんは現在、地方自治体の仕事をしています。しかし、治療のために1日に何時間、ひと月に何日も仕事を休んでいては失職するのではないかと不安です。ガバツワネさんは「希望がまったくない状態」と言います。政府運営のクリニックはいつも混んでいます。というのも、廃鉱してから鉱山のクリニックに通っていたHIV陽性の患者たちが政府のクリニックに移り、スタッフに大きな負担がかかっているからです。治療を受けるために長時間、待たなければならないとガバツワネさんは言います。「午前8時に(クリニックに)行っても、出てこられるのは午後2時です。早起きしなければサービスも受けられません」

セックスワーカーの支援

首都ハボローネから北に400キロ離れたフランシスタウンでは、BOFWAが若者と周縁化されたコミュニティの人たちに配慮したヘルスケアを提供している唯一のNGOでした。BOFWAはレブガビボ(Lebgabibo)というLGBTI支援団体と、マトシェロ・コミュニティ開発協会(MCDA、Matshelo Community Development Association)というセックスワーカー支援団体とパートナーシップを結び、HIV検査と治療を提供してきました。フランシスタウンにおけるHIV感染率は、ボツワナ国内の他の地域よりも高く、23.3%です。

BOFWAクリニックは、この町のセックスワーカーたちが保健医療ケアを受けられる大切な場所でした。多くのセックスワーカーが、他のクリニックでは同様の治療とケアは受けられないと言います。政府運営のクリニックで治療を受けると個人情報が守られない恐れが高いことが、多くのセックスワーカーに医療機関へ行くことを躊躇させています。セックスワーカーたちは、現状よりも多くのサービスを受けたいと思っています。その中には暴露前予防投与(プレップ、Pre Exposure Prophylaxis、PrEP)という、HIV陰性でも感染するリスクが高い場合、予防として抗レトロウイルス薬を投与する治療法もあります。

Naima, peer outreach worker.
ピア・アウトリーチ・ワーカーのナイーマさん

ナイーマ・ムトゥクワさん(31)は、Legabiboのピア・アウトリーチ・ワーカーです。リンケージ・プログラムが終了したため、HIV陽性のピア仲間が通えるBOFWA以外のクリニックを探しています。「3カ月以内に治療を受けるようにと言われても、BOFWA(クリニック)が閉鎖されてもう行けません。でも(ピアたちは)新しいクリニックは居心地が悪いと言います。そのために治療を受けない人が出てきています。政府運営のクリニックでは検査も治療も受けたくない、と言うのです」

治療を止めてしまう性的少数者が出る可能性を、ナイーマさんは真剣に心配しています。